はじめに
本記事でのTOB・MBO投資とは、TOB・MBOの発表~実施までに国内外の競争法等から許可が必要で長期間(数ヶ月~半年、1年以上)かかる銘柄を買い、実施の目処が立って買付価格にサヤ寄せしたところで売却して利益を得る投資手法です。
このケースでは長期間かかることから、発表されてもすぐには買付価格までサヤ寄せされず、買付価格からある程度低い株価で推移します。翌日にサヤ寄せするも、徐々に下がっていくという場合もあります。
そして、いよいよ実施の目処が立ったというところでサヤ寄せされますので、その発表または観測報道が出るまでに買うということになります。
なお、発表から実施までの期間が短いケースについては以下の記事にて紹介しております。

メリット・デメリットとリスク
メリットについては前述の通り、実施の目処が立てば利益を得られるというその1点です。
デメリットは買うタイミングによっては長期間(数ヶ月~半年、1年以上)待たなければならないため、資金拘束による機会損失が生じる可能性があるということが挙げられます。特に、信用取引を利用する場合は金利・諸経費等が生じますので、買うのが早すぎると利益を圧縮してしまう可能性があります。
リスクはTOB・MBOの中止が挙げられます。短期編と同じく、会社が「賛同の意見表明」・「応募推奨」をしている場合のみ参加しますが、国内外(特に海外)の許可が下りず、いつまでも開始の目処が立たず、最悪の場合は中止という可能性もあります。
そのため、考えなしに飛びつくと思わぬ痛手を負う可能性がありますので十分注意して下さい。
短期編と比べて、相対的にリスクが高い手法になります。
しかし、うまく活用すればしっかりと利益を得られる手法でもあります。
参加する条件
短期編と異なる点のみ解説します。
1 「賛同の意見表明」・「応募推奨」の適時開示をしている
これは短期・長期ともに言えますが、会社が賛同及び推奨の開示をしていることが絶対条件です。
特に、セブン&アイ・ホールディングス(3382)のように観測報道ばかり出てくるケースは十分注意して下さい。(後日紹介できればと考えていますが、私は軽率に手を出してしまい大きな損失を出しました。)
長期間かかることが想定されるのであれば、急いで買う必要はありません。会社の開示を待ちましょう。
2 公開買付数の上限を設定していない(上場廃止を前提としている)
3 「国内外の許可」が必要(適時開示に「許可が必要である旨」の記載がある)
※JSR(4185)の例:適時開示が2023/6/26、当初の開始目標が2023/12下旬

4 買付価格が現在の株価よりも高い
→短期編の場合は「発表時点の株価+制限値幅」よりも高いことが条件でしたが、長期の場合は買付価格からある程度低い株価で推移しますので、発表時点ではなく現在の株価が比較対象となります。
銘柄の探し方
短期編と同じですので、毎日のルーティンに組み込んでおくと良いと思います。
毎日大引け後に売買停止情報(東証)を参照し、理由に「公開買付に関する発表が行われ、監理銘柄に指定されたため」の記載がある銘柄を探します。

ある場合は、TDnetから「公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」を探して前述の条件を確認します。(件名は微妙に違うことがあります)
買うタイミング
リスクとデメリットについて十分理解した上で実施して下さい。
時間がどれだけかかってもいいというのであれば、いつ買ってもいいです。(買付価格よりも安いという前提です)
頻繁に取引するわけはなく、資金が潤沢で遊んでいるような方が当てはまるかもしれませんが、ジワジワと下がり続ける可能性もありますので、時間を分散して買うと良いかもしれません。
どれだけかかってもいいという方はなかなかいらっしゃらないと思いますので、私が行った方法について紹介します。
現在~買付開始予定日までの期間と現在の株価での利益(買付価格までの差額)から年間利回りに換算し、普段の取引での利益と比較して上回るタイミングであれば買いと判断していました。
実例紹介:JSR(4185)
私が実際に実施した銘柄の事例を紹介します。
TOBの概要
・TOBの賛同及び推奨に関する開示:2023/6/26
・当初の開始予定(目標):2023/12下旬
・延期の開示:2023/12/19
・開始の開示:2024/3/18
・買付価格:4,350円
・2023/6/26の終値:3,934円
発表後の推移
(週足チャート)

・発表翌日(2023/6/27)終値:4,215円
・2023/12/20安値:3,994円(12/19にTOBが2024/2下旬以降となる旨(延期)の適時開示)
・2024/02/05安値:3,865円(2/2に米国での訴訟の提起に関する適時開示)
・2024/03/04終値:4,245円(3/4にTOBが3月中に実施される旨の報道)
・2024/03/14終値:4,323円(3/14に3/19からTOBが開始される旨の報道)
・2024/03/19終値:4,329円(3/18にTOB開始の適時開示)
このように、最初の開示の翌日には買付価格に接近しましたが、開始までの期間が長く、海外における手続きでの不確実性などから徐々に値を下げていきました。
そして、海外の手続きで時間を要することから延期となったり、更には訴訟をされたりと大きく値を下げるタイミングがありました。
その後は、延期の開示で2024/2下旬とされていた後の2024/3/4に実施時期に関する報道があり、あまり時期を置かずに次の報道、そしていよいよ開始の開示があり買付価格にサヤ寄せされていきました。
取引履歴
現物・信用合わせて1,500株買い、44.5万円の利益を出すことができました。

最初の買いは2023/8/9頃で、何回かに分けて株数を増やしていきました。
下落が続いたことで迷いが生じ2023/10にはいくつか損切りに踏み切り、年末に利益圧縮のため損出しをしています。その後改めて期間を分散して株数を増やし、利益確定に至っています。






最初の買いから利益確定までに7ヶ月間要しました。
約600万円のポジションサイズでしたので、利益率は7.4%ほどになります。
現在メインで行っているスイングトレードでの目標利益は7.4%を上回ることが多く、今同じ条件で現れたとしても、実行しないか、ポジションサイズを小さくしての実行となると思います。
当時は普段のトレードの成績と比較した上でこちらの方が有利と判断し、実行に至っています。
なお、米国での訴訟もありましたが、当該訴訟がTOBに与える影響は軽微と考え継続しました。
また、一度損切りしながらも再エントリーした背景として、公開買付者であるJICC-02 株式会社が政府系ファンドである産業革新投資機構(JIC)グループのJICキャピタル株式会社が運用するファンドが出資する会社であったことから、TOBの実現可能性が高いと判断したと記憶しています。
余談ですが、新光電気工業株式会社(6967)もJSRと同じ産業革新投資機構系のJICC-04株式会社によるTOBが実施されましたが、こちらは参加していたのですが2024/8の日銀植田ショックで大きく損切りしました。その後買い直してほぼトントンとなったところで手仕舞いし、再エントリーの機を窺っていましたがタイミングを逃してしまいました。
使用する証券会社
基本的に長期間保有することになりますので、現物であればお好きな証券会社を使用して良いでしょう。
信用取引の場合は金利が掛かりますのでお持ちの口座を比較・検討して下さい。(利益が圧縮されることも忘れずに)
また、証券会社によっては、監理銘柄は独自の規制によって信用新規建てができない場合がありますのでご注意下さい。
まとめ
長くなってしまいましたのでまとめます。
・会社が「賛同」かつ「応募を推奨」している
・上場廃止を前提(買付株数の上限がない)
・買付価格が現在の株価よりも高い
・普段のトレードのと比較して有利(ここは好みでもあります。延期の可能性も踏まえて比較して下さい。)
・TOB・MBOの実施まで辛抱強く待てる
もう一度申し上げますが、短期編と比べて、相対的にリスクが高い手法になりますので、くれぐれもご注意下さい。ご自身で判断できない場合は実行しないことを推奨致します。
皆さんの資産形成の一助となれば幸いです。